こよみ古今「春」春の海
こよみ古今
“春の海 終日のたり のたりかな”
陽気に誘われて、まるで午睡にまどろむかのように凪いだ春の海。
そこにたゆたう緩やかな時の流れをも詠み込んだ、与謝蕪村の一句です。この句は淡路の島影を望む景勝地・須磨浦(兵庫県)の眺めを詠んだものとされますが、二百数十年を経た今、「のたりのたり」というユーモラスな響きのオノマトベは、「春の海」を形容する言葉として、広く使われるようになりました。
「春の海」といえば、宮城道雄の名曲もよく知られるところ。七歳のときに盲いたこの天才作曲家は、まだほんの幼子だったころに見た海の景色をこころの目に焼き付けて、後年、美しい日本の旋律に託しました。この曲の舞台は、彼の父親の郷里である鞆の浦(とものうら 広島県)。つまり二つの「春の海」はともに瀬戸内海の眺めなのです。