『刺繍』島崎藤村 著
テキスタイル文学館
文豪の作品に見る「明治の手芸」
「初恋」「椰子の実」などの詩や
大作「破戒」「夜明け前」など種々の作品で知られる
島崎藤村が著した短編小説。
スマホやPCで自由に読める「青空文庫」収録作品です。
50歳を超す年齢ながら若々しく、仕事への意欲も高い「大塚」さん。彼は春先のある日、通りがかった銀座で偶然、3年前に別れた妻「おせん」さんを見かけます。
彼は40代のころ周囲の反対を押し切り、20歳以上も年の離れたおせんさんを娶(めと)りました。当時の彼女は、二十歳(はたち)。まだ少女のような無邪気で、華がある美しい人でした。大塚さんは親娘ほども年の違う若妻に対し、足りない部分をあげつらい、あれこれと邪推し、一方的に疲れて、結局5年で里に帰してしまいます。
ところが現在のおせんさんを目にして、わき起こってきたのは男の未練。そして手芸好きだった彼女との思い出の数々でした。
毛糸なぞも編むことが上手で、青と白とで造った円形の花瓶敷を敷いて、好い香のする薔薇でその食卓の上を飾ってみせたものだ。