『ゆめこ縮緬(ちりめん)』皆川博子 著
テキスタイル文学館
お宮参りの縮緬、その背後にあるものは…
令和元年、幻想文学の傑作と称される本作の文庫版が復刊されました。今回はその代表作、少女の感受性がとらえた家族のなかに潜む謎や秘密を描く「ゆめこ縮緬」を紹介しましょう。
夢と現実、あるいは生と死…。その間を行き来しながら、耽美的で、どこか怖さのある世界を描出する「幻想文学」。泉鏡花、江戸川乱歩、岡本かの子、安部公房など、この系譜にある作家の作品は、読んで理解するというより、その世界に身をゆだねて“感じる”―そんな文学といえるのではないでしょうか。
本書は、20世紀末の1990年代後半に記された8編の幻想小説を収録する作品集です。8作の時代背景は大正~昭和初期あたりで、表題作の『ゆめこ縮緬』は、主人公の「わたし」がまだ学齢前だった幼少期から始まります。
彼女には年子で生まれた弟がいましたが、その弟は生まれながらに病気がありました。母はその世話に手がかかるため、長女である彼女を、漢方に用いるヘビを扱う「蛇屋」を営む伯父の家に預けます。そこには祖母と、まだ年若い叔母も同居していました。
ある日、納戸を整理している祖母のそばにいた「わたし」は、紫の風呂敷包みに目を留めます。中に入っていたのは、畳紙(たとうがみ)に包まれた、白い縮緬の小さな着物でした。それは「わたし」のお宮参りのために、祖母が縫ったものだといいます。