トルコのテキスタイルを歩く(中編)
糸を旅する
手織りの絨毯は減少している
かつて農村に暮らす女性たちは、飼っている羊や山羊の毛を紡ぎ、それを使って敷物を作ることは生活の一部であった。 しかし2010年に訪ねた時、すでにこうした営みは過去のことになりつつあった。その理由は国内経済が好転し、長時間労働をしなくてもほどほどの工業製品が入手できることや、妻や娘たちが賃金労働をすることを男たちが敬遠するからなのだと地元の人から聞いた。
簡単に手に入れた既製品は、汚れたり飽きたりしたら気楽に捨てられる、というのでは地球環境は危うい。近代化と手仕事を共存させるほどほどの方法はないものだろうか。
長い毛足の敷物の使い方
数年前に、合成染料から天然染料に糸染めを切り替えた絨毯の工房主が、精練から染色、晒(さら)しや乾燥を見せてくれ、その糸でキリムを織っている女性を訪ねる。周辺の裏庭などに放置された織枠が散見されるのは、かなりの織り手がいたのだろう。私が会った彼女は今も織っているのだろうか。
敷物であり寝具でもあった結び織りのラグはとても興味深い。床に敷く絨毯より毛足がずいぶん長く、打ち込みも緩く柔らかい。その下にフェルトのマットを防寒防湿に重ねて使う。それはむしろ毛皮に近似しており、冷え込む夜にはさぞ温かいだろう。絨毯屋の人がそれを実演してくれたことで、遊牧の暮らしを想像できたのも大きな収穫であった。