トルコのテキスタイルを歩く(中編)
糸を旅する
動物も人も
平原を東へ向かっていると、遠くに砂埃が見える。近づいて車のスピードを落とし、目をこらす。50頭あまりの羊と牧人、そしてつがいの牧羊犬。
車を降り、手を振りながら近づくと、羊の群れに山羊が少し混ざっていて、それが群れを先導している。「シヴァス」(トルコ東部の町)原産の大型「カンガル犬」の首には、太い針の出た鉄製首輪がつけられていて、それは家畜を襲う狼と闘う場合に唯一の防具であり武器となるのだ。
彼らの眼から、群れを護るという任務を十分理解しているのが見てとれる。なんと誇らしげな表情だろう。
そうした有り様は人間が他の動物を利用しているのでなく、人も動物も群れの一員として、過酷な環境の中で懸命に生きているというあたりまえの事実だ。旅における至福の邂逅(かいこう)とは、こうした瞬間にある。
ひろいのぶこ さん
プロフィール
兵庫県神戸市生まれ。京都市立芸術大学 美術学部 工芸科 卒業後、同大学美術専攻科 染織専攻 修了。長年にわたり母校で教鞭を執り、2017年に名誉教授となる。繊維を用いた作品を制作しながら、世界各地の染織の現状等を調査・研究し、工芸資料を収集。作品は京都市美術館ほかハンガリー、フランス、アメリカなど海外の美術館にも収蔵されている。
vol.82 2022・夏号より