トルコのテキスタイルを歩く(中編)
糸を旅する
山岳地帯の山羊と人
コンヤに着いて3日目、山羊との暮らしや糸紡ぎを見せていただくため、食料品をたっぷり車に積んで標高1800メートルほどのトロス山中を目指す。彼らにとって、携帯電話は必需品。おかげで道しるべもない山間で、山羊と移動している一家に出会うことができた。
強い陽射しをさけて休息する山羊たちは、遠巻きに異邦人を観察している。女性が手首に巻きつけた毛束から繊維を引き出しながら、紡錘を回転させて糸にする。この山羊の繊維は強靱で、日光や雨から家族をまもる天幕となり、燃料にする枯枝を束ねる細帯、撚り合わせてロープにするなど、暮らしに欠かせない。
はるか古代から続いてきたと考えられる「人と繊維の強い結びつき」を自分の眼でたしかめ、心に焼き付けることができたのも、この一家の協力のおかげである。
風通しのよい天幕でふるまわれた山羊乳のヨーグルトで元気になった私たちは一路「カッパドキア」を目指す。
その夜、開けた高地で大の字になり、半球状の天空にはりついたような無数の星の光を浴びたのも忘れられない。