ゆめこ縮緬

『ゆめこ縮緬(ちりめん)』皆川博子 著

テキスタイル文学館

その後、「わたし」は成長する日々のなかで、血族間から染み出てくる違和感、謎、底知れぬ闇の存在を知っていくことになります。作中には、ガラス戸に張りつくヘビや、叔母の書棚にある恋愛小説・詩集、幻想的な名画集など、どこか危うげな要素がちりばめられ、湿り気を含んだ世界を構築しています。しかし物語自体は淡々とつづられて、とても静か。

ただその先には、予想しなかった結末が待っていました。

読後、気づいたことですが、主人公の愛称は「チャーちゃん」で、そこから察するに「ゆめこ」は彼女の名前ではなさそうです。ほかの登場人物の名前としても見当たりません。では「ゆめこ」とは?そこにはどんな意味が…?まずは『ゆめこ縮緬』に身を沈め、思い思いにその答えを探ってみませんか。

この記事でご紹介した本
『ゆめこ縮緬』皆川博子 著
角川文庫 初版発行(復版):2019年

◆著書プロフィールHiroko Minagawa
【1930~】旧朝鮮京城生まれ。父は医師で心霊研究者の塩谷信男。’72年、『海と十字架』で児童文学作家としてデビュー。その後、ミステリー、幻想小説、歴史・時代小説など多様なジャンルで創作活動を展開。’86年、『恋紅』での直木賞をはじめ受賞多数。2015年には文化功労者に選出、’21年度には毎日芸術賞を受賞している。

vol.83 2022・秋号より