『ロックンロールミシン2009』鈴木 清剛 著

テキスタイル文学館

そんな折、高校時代の同級生「凌一」が、インディーズ・ブランドを立ち上げようとしていることを知ります。凌一は、高3の秋、突如「デザイナーになりたい」と言い出し、服飾専門学校へ進学。会うたびに奇抜なファッションで現れるようになりました。その彼が仲間とともに自分たちの服をつくって販売するというのです。

その仲間の一人は、ロンドンの服飾系の学校に留学経験のある「カツオ」くん。そしてもう一人、凌一が通っていた専門学校で助手として働いていた「椿めぐみ」さん。3人は古いマンションの一室を借り、服作りを始めました。戦略など立てず、出たとこ勝負。弱点を補うのは、寝る時間も惜しんで服を縫う、彼らが発するエネルギーでした。

ファッションは賢司にとって関心事ではありませんでした。しかしいつしか、時間ができれば彼らの仕事場に足を運ぶようになります。そして3人の前のめりな姿勢は、ぽっかり空洞になった賢司の心をも、徐々に満たしていくのです。

作者はファッションブランド勤務、服飾専門学校の教職を経て、文壇デビュー。前職についてきかれることも多く、それなら自分からアパレルの話しを書こうと思ったと語っています。1998年に書かれたその作品を大幅に加筆・修正、本作を「ロックンロール2009」として再び世に出しました。