『水を縫う』寺地はるな 著

テキスタイル文学館

まだ幼かった清澄はそれに興味を持ち、祖母から針仕事の手ほどきを受けました。高校生になったいまも彼は刺繍をするのが好きで、入学式後の自己紹介では「手芸部に入るかもしれない」と言います。手芸イコール〝男らしからぬもの〟。一般人が抱きがちなイメージからか、彼は教室の空気に微妙な変化を感じるのでした。

一方、姉・水青は、〝女でありながら〟かわいいものが苦手。彼女は結婚が決まり、レストランウエディングの準備をしているのですが、大きなリボンや愛らしいフリルで飾られた既成のドレスは恥ずかしくて着られない、というのです。

であれば、自分が姉のドレスを作る―清澄は大胆な提案をします。しかしウエディングドレスの制作は、そうそう簡単にはいきません。姉の望むドレスを完成させるために、清澄がアプローチしようとしたのは、離れて暮らす父。若かりしころ、デザイナーとして自分のブランドを立ち上げるという夢を持っていた父の全でした。