錦秋につやめく「シルク」の魅力
糸と手しごとファイル素材のはなし
スパンシルク Spun silk
庶民の普段着から至高の織物へ――紬
2頭のカイコが一つの繭を作った「玉繭」や穴の開いた繭、また繭の表面が汚れた「中繭」。生糸を繰るのには適さない「くず繭」と呼ばれるものも、日本では余すところなく役立てられてきました。
こうしたくず繭を精錬し、綿状に引き伸ばしたのが「真綿」。木綿ワタと比べると保温性が高く、吸湿性・放湿性にもすぐれていることから、布団や防寒具の中綿として用いられてきました。
さらに真綿を手紡ぎした糸、あるいは玉繭から引いた「玉糸」で織ったのが「紬」です。手紡ぎ・絣染め・手織りといった膨大な手間をかけ、緻密に織り上げられる「結城」や「大島」に代表される紬は、高級な織物。しかし元来はくず繭の糸などで硬く織った丈夫な生地で、庶民の普段着や野良着にも用いられたようです。
たとえ数百万の値のつく着物であっても正装には向かないとされるには、こうした背景があります。
太さが均一でなはなく、所々に節がある玉糸も、かつては絹糸としては品質的に劣るとされていました。しかしそうした“バラつき”があるがゆえに、世界でたった一枚の織り模様が表れます。その魅力に加えて、近年は玉糸が引ける職人さんの減少などもあり、希少価値が高まっています。