錦秋につやめく「シルク」の魅力
糸と手しごとファイル素材のはなし
自然界でただ1つの長繊維素材――生糸
一粒の小さな繭から繰り出される繊維は、長いもので1500メートル、繭が小ぶりで糸量の少ない小石丸でさえも400~500メートル前後。それをそのまま糸にできるシルクは、自然界では唯一のフィラメント、つまり長繊維素材です。
繭の糸は最初、もつれた状態で出てきます。そうした部分を除き、安定した部分だけを引いて作られるのが「生糸」です。生糸の主成分は「フィブロイン」という繊維状のタンパク質。「シルクサテン」に見られるような美しい光沢は、このフィブロインの光を乱反射する特性によるものです。
フィブロインはまた繊維状の構造になっているため引きにも強く、その力は同じ太さの鋼鉄にも匹敵するといわれます。そのため細い糸を作るのにも適していて、薄く透け感のある「絽」「紗」「シフォン」などが織られてきました。
ただし生糸の外側は、「セリシン」というニカワ質が包み込んだ状態になっているので、光沢を出すには製錬をしてセリシンを取り除く必要があります。
糸の段階で行う「先練り」と、生糸で布を織り上げてから精錬する「後練り」があり、それぞれの用途に適したタイミングで行われます。
先に精錬を施した糸は「練り糸」と呼ばれます。練り糸は先染めされることが多く、糸の色をそのまま織り表現に生かせるのがメリット。糸を「絣染め」にすれば、あの特有の模様を織り出すこともできます。
後練りは織った後でセリシンを除去するので、糸の間に隙間ができて、「羽二重」など柔らかい織り地になります。また緯糸(よこいと)に強撚糸を用いて織り、後練りをすると、「ちりめん」のように独特のシボのある織物もできます。