『ミ・ト・ン』小川糸 著
テキスタイル文学館
ルップマイゼは冬の寒さが厳しい国なので、ミトンは必需品。同時に、美しいミトンを手にはめることは、この国の人びとにとって喜びでもあります。そこでおばあさんは、生まれたばかりのマリカの手に合わせて、彼女が初めてはめるミトンをつくり始めました。この国のミトンは、ヘラジカの骨を細く削り、さらに毛糸を通す穴を開けた、縫い針のような形の針を使います(それでミトンは「編む」と言わずに「縫う」と表現します)。
この時代(100年ほど前のラトビア建国時)、ミトンを縫ったり編み物をしたりするのは、この国の女性たちにとって、息をするのと同じように当然のことでした。ただ、少女時代のマリカは森や川や原っぱで遊ぶのが大好き。手仕事がなかなか好きになれずいましたが、おばあさんは孫娘に根気よく編み物を教えます。
そんなマリカもやがてお年ごろに。夫となる男性「ヤーニス」に出会い、初恋、結婚・・・。マリカは自分の思いを伝えるために、こころを込めてミトンを編もうとします。
20世紀のラトビアにはさまざまな苦難がふりかかりました。マリカのその後の人生にも長くつらい時期が訪れます。そんななかでも、大いなる自然に寄り添い、ミトンを編みながら、彼女は決して温かいこころを失わず、希望の灯をともし続けました。