『きなりの雲』石田千 著

テキスタイル文学館

編み物の季節がめぐって来たころ、彼女のもとに、その手芸店の店長さんから、さみ子さんの体を気遣うハガキが届きました。実はさみ子さん、恋人との別れに傷つき、アパートの一室に独り閉じこもって過ごしていたのです。編み物教室を休み、ろくな食事もとらず、アルコールを流し込み、泣き明かす毎日。体が悲鳴を上げたとき、ようやく彼女は自身を省みます。

そして体の調子が落ち着くのを見計らって、手芸店に向かいました。仕事を放りだした自分はもうニット講師とは言えない、でもせめて、お詫びをしておかなくては――そんな思いを持って…。すると店長さんは、

「教えて教わることもあるのよ」

と、バレンタインのプレゼント講習会から教室を再開することを提案します。

<余計な詮索はせず、すぅっと心に入ってくる言葉を聞かせてくれる店長さん。大胆な行動でちょっぴり刺激をもたらす存在でもある玲子さん。同じアパートの住人で、教室にも通い始めたおしゃれな老婦人・松本さん。編み物好きな小学生・ちさちゃんと、そのご両親。

「だって。ひとりで編むよりたのしいから」

と、臆することなく女性の集まりに入ってきた編み物男子・檜山くん。