トルコのテキスタイルを歩く(後編)
糸を旅する
今につづく手仕事の背景には
トロスで若いお嫁さんが見せてくれた編み物は、肩掛けから室内履きまで創造性を発揮したもので、彼女が手仕事に勤しむことは家族の誇りでもある。後半の旅はアンタリア在住の野中幾美氏にお世話になったが、まもなく結婚式という花嫁支度の披露(チェイズ)に行きあえた。部屋の天井に渡された複数の棒に重ね掛けされたオヤレースの見事さは、圧巻である。
外では女性たちが集まって、おしゃべりしながら針を動かし、周りで子どもらが戯れる。こうした村の光景を目ににすると、季節の花や果実を象ったオヤに彼女らの思いが託されているというのもうなずける。複数で作業することによってアイデアが磨かれ、次の世代に引き継がれていくのだ。
先日大阪でオヤの展示をしていたカッパドキア在住の米津智恵子氏にお話をうかがった。近年これまでになかったネックレスやブレスレットなどに人気が高まってきているという。ワークショップも盛んで、新しい用途が工夫されている。手織りや絨毯やキリムが衰退しつつあるなか、このトルコ特有の針仕事の魅力が海外でも浸透しはじめている。
じつはインドに「カンタ」という刺し子があって、これは古いサリーを重ねて刺しベッドカバーや壁面装飾に再生させる手法だが、今や国内外からのデザイン企画によって新たな需要が創出されているのを思いだす。