産業革命からアーツ&クラフツ運動へ
糸を旅する
ここで私が大切にしている3冊の本を紹介したい。
まず『Cornish Guernseys & Knit-frocks』(Mary Wright,1981)で、これは前回登場のサンドラさんからいただいた。
ガンジー島の漁師の妻たちが編むセーターの話で、岸に打ち上げられた彼のセーターを見れば身元が判る。そのため荒波にも脱げないようぴったり編む。命と衣服の抜き差しならない関係を物語る。
つぎはニューヨークで出版された児童労働の写真集『Kids At Work』(Russell Freedman,1994)。
産業革命はその後米国にも波及し、綿畑や紡績工場で働く5歳から10代前半の子供たちは裸足だった。
3冊目はこの旅行中、V&Aの本屋から持ち帰った『The London Foundling Hospital Textile Token 1740-70』(Jhon Styls, 2010)。
産業革命時の孤児の病院に残された文書には、子供が最初に身につけていた服の端布がピンで留められた。その小さな布片はアイデンティティーであり、そこからさまざまな時代状況が語られる。
私たちはIT革命の最中にいるが、同時に産業革命の延長線上にいる。量産と消費をつづける現代からこれを知ってどうするのか。
一人一人の今が未来へと直結している。
ひろいのぶこ さん
プロフィール
兵庫県神戸市生まれ。京都市立芸術大学 美術学部 工芸科 卒業後、同大学美術専攻科 染織専攻 修了。長年にわたり母校で教鞭を執り、2017年に名誉教授。繊維を用いた作品を制作しながら、世界各地の染織の現状等を調査・研究し、工芸資料を収集。作品は京都市美術館ほかハンガリー、フランス、アメリカなど海外の美術館にも収蔵されている。
vol.80 2021・冬号より