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コットン糸(綿糸)のバリエーション|3種類の繊維の長さと加工法

糸のこと

2018/05/14

 

肌ざわりがさわやかで、吸水性にすぐれたコットン(綿)。春・夏用の衣類や雑貨に用いられる素材の“代表選手”と言っていい存在でしょう。

 

でも、ひと口にコットン糸といっても、自然なイメージそのままの素朴な風合いのものばかりではありません。「本当にコットン100%?化繊でも入っているんじゃ…」と思わせるような光沢・感触を持った糸、はたまたパシッと硬い、まるで麻糸のようなコットン…と、実にさまざまです。

 

多様なコットン糸ができるワケ、今回はそこに迫ってみます!

 

南国生まれの植物「ワタ」

 

◆コットンのルーツ

コットン糸の原料は、アオイ科ワタ属の植物が作る「蒴果」にできる繊維。いわゆる「綿花」(コットンボール)です。原産地は世界中の熱帯・亜熱帯地域で、それぞれに特徴を持ったワタが生育してきました。

 

現在はそうした原種を改良して、さまざまな種類のワタが作り出されています。それらが原産国から遠く離れた国や地域にも伝えられて、各地域で栽培されています。

 

 

◆綿花の生産地

 

綿花の主要生産国は、アジアでは中国、インド、パキスタンなど。
高温多雨のアメリカ南部は「コットンベルト」を擁する一大産地となっています。

また、広大な国土をもつブラジル、オーストラリアなども上位にランキングされています。

 

◆和綿の歴史

 

日本でもかつては外来種を改良した「和綿」が栽培されていました。江戸時代中期ごろになると庶民の着物素材は「麻」から「綿」へ。明治に入ってからも綿栽培は盛んに行われ、綿の自給率100%、綿布の輸出世界一という時代もあったようです。

 

しかし安価な原料が入るようになると、日本での綿栽培は衰退していきます。

 

21世紀のいま日本の綿花自給率は、残念ながら限りなく「0」に近い状態。そんななかでも和綿の継承に力を注ぐ人たちもいて、各地で和綿の栽培・普及活動が続けられています。

 

 

 

繊維の長さによるコットンの分類

 

綿花は、繊維の長さによって次のように分類されます。

 

繊維が長くなるほど、コットンの等級は上がります。それぞれを分けるのは、わずか数ミリ。ですが、この差によって糸の特徴や用途にも大きな違いが生じます。

 

 ◆短繊維綿

 

短繊維綿のひとつに、インド・パキスタンなど南アジア在来の「デシ綿」があります。太くて繊維の短いデシ綿は、糸の原料としては扱いづらいものの、弾力性に富んでいて、おもに布団の中綿や脱脂綿などとして活用されてきました。

 

和綿の多くも、短繊維綿に分類されます。明治初期のわが国では、この和綿を紡ぐのに適した「ガラ紡」なる紡績機も発明されました。ガラ紡機で紡いだ糸は、手紡ぎのような風合い。少量ではありますが、いまも商品化されています。

 

 

◆中繊維綿

 

現在、綿花栽培の中心となっている種類が、この中繊維綿。Tシャツ、ジーンズ、タオルやシーツ、そして多くの手編み・手織り糸…。生活のなかにあるコットン製品の大半に、中繊維綿が使われています。

 

中繊維綿のなかでも特に生産量が多いのが、メキシコ原産の「アップランド綿」。アメリカなど主要産国で盛んに栽培されている種類です。

 

 

◆長繊維綿と超長綿

 

コットンのグレードは、繊維の長さに比例して高くなります。だから長繊維綿のコットンは高級品。繊維の長さ・柔らかさを生かして細い糸が作られ、上質なテキスタイル製品などに用いられています。

 

さらに繊維の長さが35ミリを超す種類は「超長綿」と呼ばれています。
超長綿は、シルクを思わせる光沢感があるのが特徴。まさにコットンを超える、美しいコットンです。

 

 

◆エジプト綿とスーピマ綿

 

日本でもネームバリューのある「エジプト綿」。ことに、ナイル川流域のギザ地区で栽培される「ギザ45」や「ギザ70」などは高品質な超長綿として知られています。ただ、近年の中東情勢の影響で、原料を安定的に調達するのが難しい状況が続いています。

 

そこで、エジプト綿に代わるコットンとしていま、注目を集めているのが「スーピマ綿」。その品質の良さはエジプト綿に勝るとも劣らないともいわれます。

 

スーピマとは「Superior Pima」(スーペリア・ピマ、「高級なピマ綿」の意)の略。南米・ペルー原産の「ピマ綿」の改良種で、アメリカの「スーピマ協会」が設けた基準をクリアしたコットンだけが「スーピマ」を名乗ることができます。

 

 

◆綿花をブレンドして糸を作る

 

ここまで見てきたように、それぞれの綿花には個性があります。日本ではふつう、それを複数ブレンドしてから糸にしていきます。こういった方法を採る国は、世界的に見ると少数派なのだとか。

 

ブレンドする目的は、品質を保つこと。それぞれの種類の綿花の良いとこ取りをして、糸の質を落とさないようにする職人さんたちの知恵。世界に誇る日本のモノづくりのこだわりが、コットン糸作りにも生かされているのです。

 

 

 

加工・紡績で表情を変えるコットン

 

バリエーションに富んだコットン糸があるのは、綿花の種類の違いによるものだけではありません。加工や紡績法など、人が工夫を加えることでも、コットン糸の種類は多様化します。

ここでコットン糸の加工法をいくつかをご紹介しましょう。


◆綿ギマ

「ギマ」は外来語ではなく、漢字で書くと「擬麻」。コットン糸に麻のような触感を持たせたものが「綿ギマ」です。特徴はもちろん麻に似た、さらさらとした肌ざわり。綿ギマの糸で作ったカーディガンなど、アパレル商品なども近ごろ人気ですね。

 

その加工法は、植物由来の物質(ビスコースなど)で糸をコーティングするというもの。原理としては、洗濯物を糊づけして、パリッと仕上げるのと同様ですね。

 

また実際に、コンニャク芋の糊を使う「コンニャク加工」もあります。この方法でもギマ加工と同じような効果が得られることから、「エコギマ」とも呼ばれています。

 

綿ギマは、糸の外側にコーティングを施したものなので、完成品を折り畳んだりするとコーティング材がパラパラと落ちることがあります。また洗濯を繰り返すうちに、シャリ感は弱くなっていきます。麻のようなパシッとした風合いを長く保ちたいなら、できればクリーニングに出すことをおすすめします。

 

 

◆シルケット加工

 

繊維を「縮めて伸ばす」を繰り返し、糸の表面をなめらかにするのがシルケット加工。おもに長繊維綿を用いた糸の加工法です。

 

この処理を行うことで、その名のとおりシルクを思わせるツヤ感が生じます。また、シルケット加工をしていない糸に比べると繊維に染料が入りやすくなるので、発色が鮮やかに。

 

繊維の強度が増すので丈夫な糸になりますし、洗濯しても型くずれしにくく、シワにもなりにくいという大きなメリットも。ということで、素肌に触れるお洋服やスカーフなど、頻繁にお洗濯をしたいアイテムにも使えます。

 

 

◆綿コーマ

コーマとは「comb」(櫛)。つまり、紡績の過程で「繊維を梳く」という物理的な工程を加えて作られるのが綿コーマの糸です。

 

綿コーマに用いられる原料は、おもにエジプト綿やスーピマ綿など、長繊維のハイグレード・コットン。梳く過程で短い繊維もきれいに取り除かれ、長い繊維が平行にそろいます。

 

それを糸にするので、毛羽が少なく柔らかな肌ざわりに。自然なツヤ感が美しく、強度の面でもすぐれた高品質な糸ができます。

 

 

◆精練・晒し加工とキナリ糸

 

精練・晒し加工

綿花は真っ白なものというイメージがありますね。でもそこはやはり自然の中で育つ植物。種類や産地、生育した時期の気候によって微妙に茶色味が強くなることもあります。糸を濃い色に染めるのであれば、そのままでも大きな問題はありませんが、淡い色に染めるとなると影響が出てしまいます。

 

そこで、葉や茎などの夾雑物などをきれいに洗い落とし(精練)、晒して真っ白に近づける工程を加えることになります。

 

 

キナリ糸



「キナリ(生成)」は自然な色味を表す言葉のように使われることがありますが、正しくは、精練・晒し加工をしていない糸のこと。もちろん素材本来の色素をとどめたやさしい色味は、生成糸の大きな魅力です。

 

ただし蛍光漂白剤入りの洗剤を使うと自然な色が薄れていくので、お洗濯には中性洗剤や石けん成分の洗剤などの使用をおすすめします。

 

 

綿番手の見方と毛番への換算法

 

では最後に「綿番手」など、コットン糸を選ぶ際にお役立ていただきたい情報を紹介しておきましょう。

 

◆糸の太さの目安になる「綿番手」

 

コットン糸の太さの目安となる「綿番手」で、その数値は以下の基準で導き出されます。

 

綿番手「1番」
→1ポンド(=453.59g)あたり1ハンク(=840ヤード/768.096m)
綿番手「2番」→ 1ポンドあたり2ハンクの糸

このように、糸が細くなるほど数字が大きくなっていきます。

 

 

◆綿番手の表示

綿番手の表示方法は以下に示すように、多くの場合、アタマに大きな数字が来ます。
小さな数字から始まる「毛番」とは逆、と覚えておくとよいでしょう。

 

さらに最後に「スパン」を意味する「s」を付けるのが一般的な表記法です。

20番単糸  →  20/2s
30番双糸  →  30/2s
20番五子の3本撚り → 20/5/3s

※「五子(ごこ)」は、5本の原糸を撚り合わせた糸のこと。

 

 

◆綿番手→毛番の換算は「×1.7」

 

綿番手を導き出す「ポンド」や「ハンク」「ヤード」は、産業革命が起こったイギリスで用いられてきた単位。「グラム」や「メートル」に慣れた日本ではなじみの薄い単位で、ちょっと戸惑われるかもしれませんね。

 

でも、これをウールと同じ毛番(1,000g・1,000メートル=1番手)に換算すると、太さの見当がつけやすくなるのではありませんか?

 

綿番手から毛番への換算は、「綿番手×約1.68」。
さらに簡略化して「綿番手×1.7=毛番」と覚えておくと計算もラク。電卓がなくても、糸のおおまかな太さを把握しやすくなるでしょう。

 

この「×1.7」の式を用いると、例えば綿番手「20」のコットン糸であれば、毛番「34」程度の太さということになります。

 

逆に「毛番10番」ぐらいの太さのコットン糸が欲しいときは「10÷1.7」で計算。
すると「5.882…」という数字、つまり綿番手「6」あたりという太さの目安が得られます。

 

 

まとめ

 

原料の種類や加工によって、いろんな質感・表情のコットン糸が作られていること、ご理解いただけましたか?

 

「コットンで何か作ろう!」と思い立ったとき、ここで紹介したようなコットン糸の特徴・用途が、糸選びの参考になれば幸いです。そして作りたいもののイメージにぴったりのコットン糸を選び出し、心ゆくまで手編み・手織りをお楽しみください。

 

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