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ておりや通信【te】テキスタイル文学館 「コットンが好き」(高峰秀子著)

テキスタイル文学館

2025/03/29

 

約20年、皆さまにお読みいただいてきた季刊誌「te」は、この春より「ておりやブログ」内で再出発します。

新しくお届けする記事第1弾は、テキスタイルや手仕事にまつわる文学作品を紹介する「テキスタイル文学館」。

今回取り上げるのは、昨年生誕100年を迎えた昭和の映画スター、高峰秀子さんのエッセイ集「コットンが好き」です。


大女優にして名文筆家


「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾歳月」「名もなく貧しく美しく」、また「恍惚の人」。
昭和を生きてきた多くの人の記憶の中には、高峰秀子さんが演じたさまざまな女性の姿が刻まれているのではないでしょうか。

高峰さんは大正13年(1924年)3月生まれ。戦前に子役として銀幕デビュー、戦中・戦後も銀幕の世界で活躍し、「デコちゃん」という愛称で広く親しまれた名女優です。
そしてカメラの前に立ってさまざまな女性たちの人生を演じる一方で、エッセイの執筆も手掛け、多くの著書を残しました。


高峰さんは昭和54年(1979年)公開作品の後、女優引退を発表します。
「コットンが好き」はその4年後、高峰さんが間もなく60歳を迎えようとしていた1983年の秋に刊行されました。

この本の中で語られるのは、身の周りにある60種超の道具や小物たちについて。
目次を見ると「しょうゆつぎ」「おべんとう箱」「キンピラゴボウ」。「はんこ」に「おしぼり」に「足袋」「キーホルダー」と、大スターご愛用の贅沢品というより、だれもが接してきたような〝生活感〟のあるモノ、素材に例えれば気取らないコットン感覚のモノたちが多く並んでいます。

それらにまつわる思い出や、モノを見る目、あるいはモノとの付き合い方をキレ良くつづった文章は小気味良く、いろんな気づきを与えてくれます。



サラリと心地よい
コットンのような生き方、暮らし方


本作には「羽織」「帯」「浴衣」といった和装アイテムや「風呂敷」「ふきん」など、テキスタイルにスポットライトをあてたエッセイも収録されています。

特に印象深く読めたのは「楽屋着」という1編。
少女時代には、絣のような雰囲気の柄をプリントした安価な「ニコニコ絣(がすり)」の着物がお気に入りだったという高峰さん。
長じてからも絣の柄が好きで、絣模様の着物を楽屋着として愛用していたそうです。
素材はウール。だから汚れてもサッとクリーニングに出せばOK。しかも身の丈に合わせて仕立てられた「つい丈」だから、細帯1本でも着られます。
その着物は舞台裏で、大女優が気負いなくつき合えた長年の良き相棒だったようです。


著者は文庫本のあと書き(2002年現在)で、大きかった家を3間ばかりの家に建て替えて、夫妻で心静かな暮らしを送っているとつづっています。
引退後は、サラッとした木綿のような家に住みたい…。彼女の念願を形にした家で、日々を過ごしていたのでしょう。

コットンのように簡素で風通しの良い暮らし方。サバサバとした気性も魅力だった〝デコちゃん〟らしい生き方。
彼女のモノの本質を見定める眼力、モノを生かし、愛して楽しむ姿勢は、決して古びれた感覚ではなく、令和のいまにもフレッシュな空気を届けてくれます。




著者プロフィール

Hideko Takamine(1924~2010)
1924年、北海道函館市生まれ。5歳で映画デビュー。大ヒット作「二十四の瞳」をはじめ55歳の引退までに出演した映画は300本以上に及ぶ。
随筆家としても高い評価を受け、数多くの著書を遺している。


「コットンが好き」
第1刷:1983年(潮出版社)
文春文庫第1刷:2003年(文藝春秋)

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