オリジナル糸・織機・輸入クラフト用品のお店
2024/07/06
『テキスタイル文学館』は、ておりや通信『te』のシリーズです。「ものづくり」「クラフト」に目をむけて、本をご紹介し、楽しんでいただこうと連載されました。「編み図」や「作品」の本ではなく、「ものづくり」に関係のある、また印象的なシーンが含まれる「文学」をご紹介します。「もっと読みたくなった!」と思われる方は是非本をお手元に。
今回ご紹介する本は『ゴールディのお人形』。ものづくりの原点に立ち返らせながら、やさしいタッチのイラストで心を癒してくれる…。手もとに置いて、繰り返し読みたい1冊に出会えました。
自分の信じるものを大切に、
心を込めて、ものをつくる。
その心は作品を通じて、いつか
だれかの心と響き合うと信じて―
手仕事を愛するひとに贈りたい、やさしいお話をどうぞ
主人公の名はゴールディー・ローゼンツヴァイク。彼女は両親が亡くなってからも、父がしていたように木を彫って小さな人形をつくり、母がしていたようにその人形にきれいな服や愛らしい顔を描く仕事を続けていました。しかも両親が8年間がかりでつくったのと同じぐらいの人形を、彼女はたったひとり、その半分の期間でつくりました。それでも注文に間に合わないほどの人気でした。
それほどまでに人びとを魅了するゴールディーのお人形。ゴールディーはそれを、のこぎりで四角く切った木材ではなく、森で拾った枝から掘り出します。そうしないと、その人形が生きている感じがしない―彼女はそう考えます。
そんな彼女のこだわりに、友人のオームスなどは「ただの人形なのに」と、半ばあきれた様子。それでもゴールディーは、その人形を手にするひとのために心を込め、何度も笑いかけながらつくり進めます。完成した人形は、そのゴールディーの笑顔を映したかのような愛らしさ。それが人気のひみつなのでした。
ある日のこと、町に出た彼女はお気に入りの店で、これまでに見たこともない美しいランプに目を奪われ、釘付けになりました。そのランプもまた、ゴールディーの人形と同様に、作者がまだ会ったこともないだれかのために一生懸命つくり上げたもの―彼女のつくる人形、そして創作の写し絵でもあったのです。
作者のゴブスタインは幼いころ、「本」というもののすばらしさに、神様からの贈り物と思っていたそう。その本は“ひと”が書いたものだと知って、自身も「本を書く人」になりたいと願うようになったと語っています。そんな作者が表現しようとしたものの主軸に、自分を信じて黙々と働くひとの尊さがあります。
M.B.ゴフスタイン【1940~2017】米国ミネソタ州セントポール生まれ。大学では美術・小説・詩作を学び、卒業後はニューヨークで画家として活動。その後、絵本創作を開始し、友情、自然、家族、仕事などをテーマとする作品を数多く発表した。
末盛千枝子【1941~】絵本編集者を経て「すえもりブックス」を設立。本書も当初、同社より出版された。2010年、岩手に移住。’11年から10年間、被災地の子供たちに絵本を届ける「3.11絵本プロジェクトいわて」の代表を務めた。
ておりや通信『te』vol.87
テキスタイル文学館 より