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2025/10/11
2025年、暑く長い夏がようやく過ぎ、「そろそろあたたかウールで何かつくろうかな?」と思っている人も多いのではないでしょうか。
そんな季節、秋冬の主役級の素材である「ウール」に注目。
ウールに関するデータやレポート等をベースに、2020年代のウール事情について、2回にわたって探っていこうと思います。
今回はまず、ウールの〝いま〟。
主要なウール供給国であるニュージーランドとオーストラリアの、2020年以降のデータを軸に、ウールを取り巻く状況をまとめてみました。
ニュージーランドといえば〝羊の国〟。それは日本でもよく知られていますね。
国土面積は日本よりひとまわり小さめ(本州と九州を足したぐらい)。
そこに、東京都民の4割ほどにあたる約500万人の人が暮らしています。
そしてその人口を大きく上回る数の羊が飼育されています。
2023年のとある調査を見ると、ニュージーランドの羊の飼育頭数は世界で14位(1位:中国、2位:インド、3位:オーストラリア)。
ですが、原毛の輸出量になると、1位のオーストラリアに次ぐ世界第2位に躍り出ます。
(ちなみに日本の羊の飼育数は1万5千~2万頭程度/世界153位)
このデータを見ると、2020年代になってもニュージーランドはやはり〝羊の国〟。
そして〝ウールの国〟といえそうです。
しかし残念なことにいま、ニュージーランドでは「羊離れ」が進んでいるようです。
その根底にあるのは、1990年代から続くウール価格の低迷。
飼育にかかる費用が上昇しても、それを価格に転嫁するのは難しく、牧場経営は「持続可能な仕事」とはいえない状況になっているのです。
そのため牧場を、より多くの利益を得られる宅地や農園に転換。
特に昨今は、地球規模で進められている「カーボンクレジット」(温室効果ガスの排出量を抑える取り組み)の一環として、木を植え、森に転換する動きも目立っているといいます。
結果、1980年代のピーク時に約7000万頭いたニュージーランドの羊は、約6割減の2300万頭に。
多いときには「国民1人に22頭の羊」だったのが、2025年現在は「1人につき4頭」になってしまいました。
ニュージーランドの西には、羊超大国のオーストラリアがあります。
面積は堂々、日本の約20倍。
その広大な国土の半分近くが牧草地や牧場として利用されているといわれます。
オーストラリア全土の年間平均降水量は、日本の約1/3程度。
羊は体を覆う毛と保湿性の高いラノリン(皮脂)のおかげで乾燥に強い動物なので、乾燥した環境下にあるこの国でも盛んに飼育されてきました。
ところが近年のオーストラリアは、その少ない降水量をも下回ることが多く、干ばつが長期化・深刻化。
羊の食べる牧草が育ちにくくなるなどの影響もあり、2020年代に入ってからの羊の飼育頭数は右肩下がりです。
飼育頭数が少なくなれば当然、原毛の生産量は減少。
それに伴い原毛価格は上昇、2025年9月に発表されたウール価格指標では前年比18%を超える高値がついています。
さらに、少なくなった原毛から質の良いウールを確保しづらい状況にもなっています。
ニュージーランドやオーストラリアに限らず、おそらくウール供給国それぞれに問題があって、それが羊の飼育・ウール生産にも影響を与えているのでしょう。
そんななかでも荒波を乗り越え、この日本に届けられ、手もとにやって来るウール糸。
手から伝わるそのやさしさ・温かさをしっかり受け止めて、長く大切につき合えるステキな作品を仕立てたいものですね。