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2025/07/18
「ニュースくりっぷ」ではこれまで何度か、ヨーロッパで開かれた国際的な繊維・ファッションの見本市の話題を取り上げてきました。
こうした催しはアジア各国でも開催されていて、今年に限っても、香港、インド、そしてサウジアラビアなどの見本市に日本の企業が参加しています。
そのなかで、今回注目したいのがサウジアラビア。
日本では一般に「石油産国」のイメージが強いですが、テキスタイルでも日本とのつながりが非常に強い国なのです。
そしてこの砂漠の国で愛されてきたのが、おなじみの涼やか素材・コットンです。
サウジアラビアをはじめとする中東諸国で、男性が足首まである長いワンピース型の白い衣装を着用しているのを見たことがある人は多いでしょう。
これはアラブ諸国で「トーブ」などと呼ばれる民族衣装です。
サウジアラビアではその多くに、日本産の生地が使われてきたという事実をご存じでしょうか。
サウジアラビアは、日本の約5.7倍の広大な国土をもつ国。その約95%が砂、土、石、岩から成る砂漠です。
夏の暑さは非常に厳しく、昨年(2024年)はイスラム教最大の聖地・メッカで50度を超える日が何日も続いたというニュースも報じられました。
そうした灼熱の国で着用されてきた、民族衣装のトーブ。
コットンはその素材として伝統的に使われてきました。
コットンが涼しく感じられる理由は、繊維の構造にあります。
コットン繊維の断面を顕微鏡でのぞくと、中心に空洞があるマカロニ状をしていることがわかります。
だから汗をかいても、その空洞に水分が素早く吸収されるから、サラサラの着心地をキープ。
さらに発散性も高く、吸収した水分が蒸発するときに気化熱を奪うため、涼しく感じられるのです。
そう、夏の暑さをしのぐための生活の知恵「打ち水」の涼しさと同じ原理ですね。
また中の空洞が空気の通り道になるので、通気性も◎。
こうした特性から、コットンは砂漠の国、そして酷暑続きの日本の夏にも活躍してきたのです。
なお汗をかく季節は肌トラブルが起きやすいですが、コットンは化繊などと比べると、アレルギーの心配が小さいといわれます。
そんな点からも、コットンは夏に活躍させたい素材です。
そもそも、日本がサウジアラビアに向けてトーブ生地を輸出し始めたのは、繊維が日本の産業の中核だった1960年代のこと。
その当初から、ムラのない日本製の生地の品質は、現地で高評価を得てきたそう。
それから約60年。シワになりやすいというコットンの弱点を克服するために、綿混や人造繊維のトーブ生地なども開発。
いまやサウジでは、フォーマルな場で着られるような高級なトーブのほぼ100%が、日本製の生地からつくられたものだとか。
今年、同国で開かれた展示商談会(日本貿易振興機構と、サウジアラビアファッション委員会の共催)には、日本の繊維メーカー8社が出展、サトウキビを活用した植物素材なども紹介されました。
60年間築き上げてきた日本品質への信頼を背景に、持続可能性のある素材開発にも関心が寄せられるなど、出展した企業は手ごたえを感じたようです。
ミステリアスな砂漠の国へのロマン、そこに暮らす人をも魅了する日本のテキスタイル…。
いろいろ思いをめぐらせながら、この夏はすぐに使える涼やかコットンアイテムをつくって、楽しんでみてはいかがでしょう。