オリジナル糸・織機・輸入クラフト用品のお店
2018/10/19
明暗、濃淡、色味の変化…。1本の糸のなかに、ニュアンスを含んだ表情を見せる、ウールの杢糸(もくいと)。
手編みのセーターやマフラー、また手織りして服地やあったかインテリアにも。深みのある表現ができる杢糸は、秋冬のアイテム作りにぴったりです。
「杢」という字は「木目」、という意味をもつ和製漢字なのだそう。杢糸の色味も、木の幹に刻み込まれる模様に通じる複雑さです。
例えば「深紅」のように見える毛糸でも、単色で染めた糸とは一見で違いがわかります。さらに杢糸を手に取ってじっくり見ていただくと、1本の糸(単糸)の中に、赤と黒、あるいは思いもよらぬ色の繊維がまじり合ったり、霜降り状になっていたりするのがおわかりになると思います。
このような糸ができるのは、複数の色に染めた繊維を使っているからです。
織った布を染める「後染め」に対し、織る前に糸の段階で染めることを「先染め」と言いますね。杢糸の染色は、さらにその前。糸にする前段階で行います。
毛糸は紡績をする前に、ウール繊維をワタ状にして、太い紐のようにまとめて巻き上げます。この状態を「トップ」といいます。ちなみにトップは英語でコマ(独楽)のこと。巻き上げたカタチが、おもちゃのコマに似ていることから、こう呼ばれています。
手編み・手織りに使われる毛糸の多くは、トップを紡績してから染められますが、杢糸の原料は、このトップの段階で染めたもの。それを複数ミックスして、1本の糸にするのです。
つまり、イメージにぴったり合う色にするための試作・工程が必要になってきます。1色の染料で染められる糸にはない手間ひまに加え、さらには混ぜ合わせる素材の色のバランスによって、ニュアンスは微妙に異なってくるため、熟練の職人さんの感覚も不可欠です。
なおトップ染めのメリットは、均染性に優れているところ。なので、おもに同じ色の糸を大量生産するときに用いられています。ただし、手織り・手編み用の杢糸を小ロットで作るとなると、トップ染めは効率の良い方法とはいえません。
そうした手間のかかる仕事が、杢糸の豊かな表情を生み出しているのです。
赤い糸と白い糸、白い糸と黒い糸など、異なる色同士を撚り合わせ、変化をもたせた糸もよく見かけます。これを「杢糸」と呼ぶこともあるようです。
でも先ほどご紹介したように、複数色の繊維をまぜて紡績するのが、本来の杢糸。だから私たちは、複数色を撚り合わせた色糸などは「杢調の糸」と呼んで区別しています。
面白いことに、ふつうの糸をふつうに染めても、杢っぽい表情が表れることがあります。それは、染まり具合の違う素材の混紡だけでなく、「ウール100%」「シルク100%」の場合に表れることも…。
それも、自然素材の魅力。ひと括りにはできない自然素材の個性が、糸の色彩となって表れるのですね。